リゾート再生事例から学ぶスクラムマスターの重要性について

先ほどのエントリ(星野リゾートの教科書から学ぶビジネス成功への良書13選)で紹介したエッセンスを具体的に示したのが、こちら。


星野リゾートの事件簿 なぜ、お客様はもう一度来てくれたのか? by 中沢 康彦
星野リゾートの事件簿 なぜ、お客様はもう一度来てくれたのか? by 中沢 康彦

 私は、Scrumによるアジャイルな開発で、スクラムマスターとして仕事をしている。星野社長は、スクラムマスターの仕事と同じやり方で、強いチームや組織を作り、破綻したホテルを再生した。別な業種であるが、やり方は共通している。とても興味深い内容だ。

再生のパワーの源

 本書の主役は、星野リゾートが運営する全国のホテルや旅館のスタッフである。お客様を満足させることは、簡単なようで、難しい。その中で、スタッフが自分で考え、悩み、行動し、周囲のスタッフを巻き込み、クレームが笑顔に変わった。星野社長は、スタッフの行動を見守り、問いかけ、アドバイスする。決して細かい指示は出さず、スタッフが自ら動き出すのを待つ。その間、星野社長はスタッフに対して、繰り返し、こう語りかける。

 「お客様の満足度を高めよう」

 星野社長は、現場では脇役どころか、姿さえほとんど見せない。必要なときに、会議に参加したり、メールを送ったりして、勇気づけるだけだ。それでも、星野社長が掲げた「リゾート運営の達人」というビジョンはスタッフの間に浸透し、再生のパワーを生み出している。会議では、何よりも議論をじっくり聞く姿勢を取る。例えば、メンバーに対して、「それって本当?」と尋ねたり、「もっと具体的にしてみよう」「では、どうしますか」と促したりした。メンバーが自分たちで考えるための手助け役に徹していた。
 スクラムマスターの役割の中に、コーチングやファシリテーションがある。そして、チームが率先して作業できるように裏方で支える。まさに、星野社長が行っていたことは、スクラムマスターの役割をこなしていると言えるだろう。

再生で重要なコンセプトづくり

 リゾートの再生に当って、星野リゾートでは調査会社を使って詳細なデータを集めることから始める。再生する施設のメーンターゲットとなる客層を決め、どうアプローチするかを考え、「コンセプトづくり」を進める。コンセプトを明確に定めたうえで、それに合わせた詳細なサービスメニューを組み立て、顧客満足度を高める。サービスの評価を高めることでリピーターを増やし、稼働率を上げる。同時に、業務の進め方を見直し、ムダを取り除く。こうして収益性を高め、早期の黒字化を実現する。これが、星野社長の基本スタンスである。
 私は、Scrumチームの発足時にはじめに行うこととして、インセプションデッキづくりを推奨している。
インセプションデッキとは、プロジェクトの関係者全員で、ビジョンの共有やプロジェクトの全体像、今後の方向性等を明らかにしてくれるツールのことである。インセプションデッキのテンプレートは、こちらから入手できる。keynote版とPowerPoint版が用意されている。
 その他に、メーンターゲットを決める際は、ペルソナ(仮想のユーザ)を描いて、行動シナリオやゴールについて仮説を立てる。

再生で重要なモチベーション

 星野社長は、再生を実現するためには、社員のモチベーションが不可欠だと考えている。私も同意である。一人でも多くのお客様に喜んでもらえるサービスやプロダクトを提供したいといった高いモチベーションがなくては、より良いサービスやプロダクトは生まれないだろう。
 星野リゾートでは、若いスタッフが上司に向かって、遠慮することなく「自分はこう考える」と主張する姿を目にする。星野社長は、「誰の主張か」でなく、「どんな主張か」が重要だと考える。
 Scrumの開発も同様の考えだ。Scrumのプラクティスの一つに「ふりかえり(レトロスペクティブ)」がある。そこでは、「問題対私たち」の原則に則っている。問題に対して、責任を追及して、特定の人を攻撃することはしない。問題の原因についてチーム(私たち)で検討するのである。その原則により、「信頼関係」を築き、より良い発想が出てくるのである。

再生で重要な育成

 再生に当って、顧客満足度の向上を強調し続けた。スタッフが考えて動くように、自由な議論を続けた。それがスタッフを変え、成長させた。現場スタッフの顧客志向の行動が、様々な大ヒットを生んだ。現場スタッフを信じ、チャレンジさせたり、自信を持たせるために星野社長は、様々なアクションを取った。それも、ベストなタイミングで実施されていた。これは、常に、現場のことを見て回り、サポートが必要なところに必要な行動で対応していたのが良かったと思う。星野社長は、「日本の観光をやばくする(素晴らしくする)」ために一番重要だと考えているのが、現場のスタッフである。スタッフがうまく判断できなければ、顧客満足度を高めることはできない。業務内容を標準化してムダをなくしても、最終的には観光ビジネスの競争力を決めるのは、スタッフの対応である。
 スクラムマスターは、チームメンバーを信じて任せることが大切だ。チームメンバーに気づいてもらうように、仕向ける行動も必要である。あまりに前に出過ぎるとチームメンバーの思考停止や、やらされ感を味わってしまい、機能しなくなるので注意。

まとめ

 スクラムマスターは、Change Agent(変革推進者)である。星野社長が再生するために施した対策は、スタッフを育て、組織や会社を強くした。まさに、Change Agentである。どんな業種にも、スクラムマスターの役割が求められている。今後さらにスクラムマスターのスキルを磨いていき、自分を変え、チームや組織、会社を良い方向に変えていきたい。変えた事例をたくさん報告できるよう、精進していく。